Masukその夜、私は自宅でスマートフォンを握りしめていた。
怜司さんの連絡先を開く。 仕事の連絡なら、何のためらいもなく送れる。 明日の予定変更。会議資料の確認。取引先からの連絡。 どんな用件でも、必要なことを簡潔にまとめて送信できる。 けれど、今は全く手が進まない。 『お話ししたいことがあります』 そこまで入力して、手が止まった。 これでは、あまりにも曖昧だ。 『実は、妊娠しました』 そう打ち直す。 たった一文なのに、送信ボタンを押せなかった。 このメッセージを送れば、すべてが変わる。 彼はきっと責任を取ろうとする。そういう人だ。自分が引き受けるべきことから逃げない。 だからこそ、怖かった。 彼の誠実さに甘えて、人生を縛りたくなかった。 彼が本当に私を選んでくれたのか。それとも、責任を果たそうとしているだけなのか。 そんなことを疑いながら夫婦になるなんて、きっと耐えられない。 私は入力した文章を、ひと文字ずつ消していった。 「……ごめんなさい」 誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。 最近は謝ってばかりだ。 *** 翌朝出社すると、怜司さんはすでに社長室にいた。 「おはようございます、社長」 「ああ、おはよう」 いつもどおりの挨拶。 いつもどおりの光景。 それなのに私は、彼の顔をまともに見られない。 「白石」 「はい」 「本当に体調は大丈夫か?」 思いがけず尋ねられ、私は慌てて顔を上げた。 「はい。もう大丈夫です。お気遣いありがとうございます」 「ならいいが。具合が悪いなら、遠慮せずに言ってくれ」 「はい。ありがとうございます」 その優しさに、胸が痛くなった。 今妊娠していると伝えれば、彼はきっとさらに心配してくれるだろう。 病院にも付き添ってくれるかもしれない。 なんなら私の体調を気遣い、仕事の負担を減らそうとまで言い出すかも。 「白石」 「……はい」 「少し、時間をもらえないか」 私は顔を上げた。 彼は書類を閉じ、こちらを見ていた。 「仕事のことでしょうか」 「いや。個人的な話だ」 心臓が嫌な音を立てた。 「あの夜のことも含めて、君と一度きちんと話がしたい」 思わず視線を落とす。 あの夜。彼はこんなにも簡単に口にする。 「……申し訳ありません。今は、少し」 「今すぐじゃなくていい。君の都合のいいときで構わない」 「……ありがとうございます」 「紗奈」 その呼び方に、思わず顔を上げさせられる。 「俺は、君に無理をさせたいわけじゃない」 怜司さんは少しだけ眉を寄せた。 「ただあの夜のことを、なかったことにはしたくないんだ」 息が止まりそうになった。 なかったことにはしたくない。その言葉が、どれほど嬉しいか。 けれど今の私には、その先を聞く勇気がなかった。 「……すみません。今は、仕事に集中したいんです」 彼の表情が、わずかに曇った。 「……そうか」 それ以上、彼は何も言わなかった。 私の気持ちを尊重してくれたのだと分かっていた。 それなのに彼が静かに書類へ視線を戻したとき、ひどく寂しくなる。 自分から拒んだくせに、私は本当に勝手な女だ。 *** 帰宅した私は、もう一度スマートフォンを手に取った。 今度こそ、伝えよう。何も言わずに誘いだけ断り続けるのは間違っている。 そう思い怜司さんの連絡先を開く。 ふいに、生まれたあとのことまで考えが及んだ。 もし、この子が生まれたら。 怜司さんは父親として、きっとこの子を迎えようとするだろう。 東條家はそれをこの子を受け止めるのだろうか。 跡取りとして育てるべきだと言われるかもしれない。 どこで暮らし、誰が育て、どんな人生を歩むのか。 そのすべてが私の知らないところで決められてしまったら。 まだ生まれてもいないこの子の未来を思うと、たまらなく怖くなった。 東條怜司と表示されたメッセージ画面を閉じ、ゆっくりとお腹に手を当てる。 「ごめんね……」 わけもわからず涙が頬を伝った。この子には、無駄に苦労をかけてしまうかもしれない。 「あなたのことは、私が守るから」 怜司さんを好きな気持ちは、今も変わらない。それでもこの子だけは、誰かの都合に振り回されずに生きてほしい。 私は涙を拭い、顔を上げた。 不安はある。怖さもある。 それでも、この子を産みたい。 私のもとに来てくれた命を、守りたい。 「一緒に頑張ろうね」 小さなお腹に向かって私はそっと語りかけた。 返事はないけれど、もうひとりではない。 *** 翌朝、私はいつもどおり出社した。 社長室のドアをノックし、いつもの声で挨拶をする。 「おはようございます、社長」 「ああ、おはよう」 怜司さんは書類から顔を上げ、私を見た。 「顔色がすぐれないな。変わりないか」 「はい。大丈夫です」 彼は何か言いたげだったが、結局それ以上は尋ねなかった。 私はいつものように一日の予定を読み上げる。 会議の開始時刻、来客の予定、午後の打ち合わせ。 ひとつずつ確認している間だけは、普段の自分でいられた。 「……白石」 「はい」 「本当に、無理だけはするなよ」 「ありがとうございます」 私は頭を下げた。 その言葉に、どれほど救われているか。 そして、どれほど苦しめられているか。 きっと彼は知らない。 隠し通さなければならないのに、彼の優しさに触れるたび、決意が揺らぎそうになる。 それでもこの秘密だけは、何があっても守り抜かなければならない。同じ日の夕方。恭介は都内のホテルラウンジで、一人の男と向かい合っていた。「ご無沙汰しています」「こちらこそ。最近はお忙しいそうですね」男は東條ホールディングスの取締役の一人だった。恭介は穏やかな笑みを浮かべた。「いやあ、兄があれだけ頑張っていると、弟の俺も少しは働かないといけませんから」「ははは。恭介さんは相変わらずご謙遜を」「そんなことありませんよ」恭介はコーヒーカップを持ち上げた。「ところで、来月の創立記念パーティーですが」「ええ」「今年は、何か特別な催しでもあるんですか?」「特別な催し、ですか?」「いや、兄がずいぶん気合いを入れているようなので」取締役は首を傾げた。「そうでしょうか。例年と大きく変わる予定はありませんが」「そうですか」恭介は笑った。「それなら、俺の気のせいかな」「ただ……」取締役が思い出したように口を開いた。「今年は社長がご同伴者をお連れになると聞きました」「へえ」恭介は初めて聞いたように目を見開いた。「それは珍しいですね」「ええ、私も驚きました」「どんな方なんでしょう」「すみません、名前までは」「そうですか」恭介は残念そうに笑った。「兄は昔から、そういう話を全然してくれないんですよ」「兄弟はそんなものでしょう」話題はそのまま、最近の業績や取引先の動向へと移っていった。恭介は相槌を打ちながら、相手の話を丁寧に聞いていた。だが、頭の中では別のことを考えていた。白石紗奈。そして、あの子供。先日、商業施設で会った小さな男の子の顔が浮かぶ。恭介は口元に浮かびかけた笑みを抑えた。まだ、確かめなければならないことがある。***その日の夜。湊を寝かしつけたあと、私はリビングでパーティー用のドレスを探していた。怜司さんが送ってくれたカタログには、色とりどりのドレスが並んでいる。どれも素敵だけれど、なかなか決められない。「……難しいなあ」思わず呟いたところで、スマートフォンが震えた。怜司さんからだった。「もしもし?」『紗奈、こんばんは』「こんばんは。今日もお疲れさまです」『ありがとう。何してたんだ?』「ドレスを見てました」『もう探してくれてるのか』「はい。でも、どれがいいのか全然分からなくて」電話の向こうで、怜司さんが笑った。『だから、一緒に選ぼうと言
東條ホールディングスの本社ビルでは、来月の創立記念パーティーに向けた準備が進められていた。怜司は社長室で、各部署から提出された報告書に目を通していた。「失礼いたします」ノックとともに、桐谷が入ってきた。「創立記念パーティーの件で、ご報告がございます」「ああ。何か問題でも?」「いえ、準備自体は順調です。ただ……」桐谷は少し言い淀んだ。「東條恭介様から、招待客についてお問い合わせがありました」怜司の手が止まった。「……恭介が?」「はい。今回の招待客の顔ぶれを確認したいとのことでした」「それで?」「正式な招待客一覧は、まだお渡ししておりません。確認のうえ、ご連絡するとお伝えしました」「そうか」怜司は資料を机に置いた。恭介が創立記念パーティーに関心を持つこと自体は、不思議ではない。東條家の一員として、これまでも何度か出席している。だが、招待客の一覧をわざわざ確認しようとするのは珍しかった。「ほかに何か聞かれたか?」「……社長のご同伴者についても」怜司はわずかに眉を寄せた。「詳しく話せ」「今年はどなたかお連れになるのか教えてほしい、と」「……そうか」「白石さんのお名前は、お伝えしておりません」「分かった。ありがとう」桐谷は一礼したが、すぐには退出しなかった。「……社長」「何だ?」「差し出がましいことかもしれませんが、白石さんをお連れになる件は、社内でも話題になるかと思います」「そうだろうな」「よろしいのでしょうか」怜司は桐谷を見上げた。「何が?」「……いえ。以前、秘書を務めていた方ですので」「問題ない」怜司は静かに答えた。「彼女との関係を隠すつもりはない」「……承知いたしました」桐谷はそれ以上何も言わず、部屋を出ていった。扉が閉まると、怜司は椅子の背にもたれた。恭介。幼い頃から、あの男が何を考えているのか分からないことは珍しくなかった。人当たりがよく、誰にでも気さくに接する。その一方で、相手の弱みを見つけることには妙に長けていた。以前から、自分に対して複雑な感情を抱いていることも知っている。ただ、最近の恭介は少し様子が違った。これまで会社の経営にはほとんど関心を示さなかったはずなのに、ここにきて役員や取引先との接触を増やしているという話も耳に入っている。怜司はしばらく考えたあと、
怜司は、社長室で一通の封書を見つめていた。秘書室を通じて届けられたものだった。中には、会食の申し入れが記されている。「……またか」怜司は小さく息を吐いた。以前から、縁談を勧める話は何度かあった。取引先との関係を考えれば、無下にはできない相手だ。だが、結婚相手を仕事の都合で決めるつもりはない。まして今は、紗奈がいる。怜司は内線を取った。「桐谷。少しいいか」ほどなくして、桐谷が入ってきた。「お呼びでしょうか」「会食の件だが、今回も丁重に断っておいてくれ」「……承知いたしました」桐谷は封書を受け取った。「先方には、どのようにお伝えいたしましょうか」「私的な会食に応じる予定はない、と」「かしこまりました」桐谷は一礼した。そのまま退出しようとしたところで、怜司が声をかけた。「それと、創立記念パーティーの同伴者が決まった」桐谷が振り返る。「……どなたでしょうか」「白石紗奈だ」一瞬、桐谷の表情が固まった。「……白石さん、ですか」「ああ」怜司は迷わず頷いた。「俺の恋人として出席してもらう」桐谷はしばらく黙っていた。やがて、いつもの落ち着いた表情に戻る。「……承知いたしました。手配いたします」「頼む。父には、俺から伝える」「承知いたしました」扉が閉まったあと、怜司はスマートフォンを手に取った。紗奈から、湊の写真が届いていた。積み木を積み上げ、その隣で得意げに拍手する姿が写っている。『見てください!今日は三回も成功しました』怜司は思わず笑った。『すごいな。今度、俺にも見せてくれ』送信してから、もう一度写真を眺めた。来月、紗奈が自分の隣に立つ。その日が、今から楽しみだった。***同じ頃。都内の会員制バーで、恭介は向かいに座る女の話を聞いていた。「……また断られました」「そう」恭介は、さほど驚いた様子もなく答えた。「相変わらず、頑固だね。あいつは」「他人事みたいに言わないでください」「他人事ではあるでしょう?」恭介は楽しそうに笑った。女は眉を寄せた。「協力してくださる約束でしょう」「もちろん。そのつもりですよ」恭介はグラスを置いた。「ただ、焦っても仕方ない。怜司は押せば折れるような男じゃないですからね」「……分かっています」「だったら、もう少し賢く動かないと」女は黙って恭介
『……今年は、俺と一緒に出席してくれないか』「……え?」怜司さんの放った言葉を理解するのに、長い時間を要した。「私が、ですか?」『そうだよ』「……会社の記念パーティーにですよね」『そうだ』「でも、私はもう秘書では……」『紗奈、秘書として誘ってるわけじゃない』怜司さんは、私の言葉を遮るように答えた。『恋人として一緒に来てほしいんだ』心の何処かでそうだろうと思っていた答えが、実際に怜司さんの口から放たれる。「……恋人として」『ああ』私は思わず黙り込んでしまった。あのパーティーがどんな場所なのか、よく知っている。大勢の経営者や役員、その家族が集まる華やかな会場。そこに、怜司さんの恋人として出席する。それは、ただ二人で食事に行くのとはまったく違う意味を持つ。「……怜司さん」『どうした』「私が一緒に行ったら、いろいろ聞かれると思います」『そうだろうな』「以前、秘書をしていたことも、知っている方がいるでしょうし……」『ああ。聞かれたら、正直に話せばいい』「……馴れ初めとかも、聞かれるかもしれません」『そうだな。出張先で再会して、俺が必死に口説いたってことにしようか』「……怜司さんが必死になるなんて、信憑性に欠けます」『何言ってる、ここ最近はずっと必死だ。何度も会いに行ったし、振り向いてもらうのに苦労したからな』心外そうに言う怜司さんに、思わず笑ってしまった。「そんなふうに言ったら、私がずいぶん冷たい人みたいじゃないですか」『口説き落とすのに苦労したのは事実だろ?』「……もう」怜司さんが楽しそうに笑った。つられて笑いながらも、ふと、別の不安が胸をよぎった。「それに、私は……」湊がいる。恋人として紹介されるだけなら、まだいい。けれど、私に子供がいると知られたら、きっとその父親についても聞かれるだろう。怜司さんは、何も言わずに続きを待ってくれていた。「……湊のことも、知られるかもしれません」『ああ』「私たちの関係が知られたら、怜司さんのお仕事に影響が出ることだって……」『紗奈』静かな声だった。『君と湊の存在と、仕事は全くの別物だ』「……でも」『君が心配してくれてるのは伝わっている。ありがとう』その言葉に、胸が詰まった。『ただ、俺は君たちを隠しておきたいわけじゃない』「……はい」『も
穏やかな日差しが差し込む午後三時。怜司は社長室で、来月開催される創立記念パーティーの資料に目を通していた。東條ホールディングスの役員をはじめ、主要取引先の経営者やその家族が招かれる、年に一度の催しだ。以前は紗奈も、その準備に携わっていた。招待客の管理から当日の進行まで、細かなところによく気がつく秘書だった。あの頃は彼女がどれほど自分を支えてくれていたのか、十分に理解していなかった。「失礼いたします」ノックのあと、桐谷が入ってきた。「創立記念パーティーについて、確認事項がございます」「ああ」桐谷は手元の資料を開いた。「招待状の発送準備は、ほぼ完了しております。それと、当日のご同伴者についてですが」「同伴者?」「はい。例年どおり、お一人でのご出席でよろしいでしょうか」怜司は少し考えた。これまで、誰かを伴って出席したいと思ったことはなかった。だが、今年は違う。「……いや。今年は連れていきたい人がいる」桐谷の手が、一瞬止まった。「……そうですか」「ああ。まだ本人には話していないが」「承知いたしました。お決まりになりましたら、お知らせください」「分かった」桐谷は静かに頭を下げ、部屋を出ていった。一人になった怜司は、椅子の背にもたれた。紗奈を誘いたい。もちろん元秘書としてではなく、恋人として。ただ、彼女はあの場所がどういうところかを知っている。自分の隣に立つことを、簡単には受け入れないだろう。湊のこともある。それでも、もう隠すつもりはなかった。二年前、紗奈は何も告げずに姿を消した。あのときの彼女が、何について悩んでいたのか。今なら少しは分かる気がする。だからこそ、今度は自分から手を伸ばすと決めた。『紗奈、今夜電話をしてもいいか』湊はちょうど昼寝していたのだろう。メッセージを送ると、すぐに返事が返ってきた。「もちろんです。待ってますね」思わず口角が上がった自分自身を自覚し、腑抜けになったものだと自嘲した。***その日の夜。湊を寝かしつけてリビングに戻ると、ちょうど電話が鳴った。「もしもし、怜司さん?」『紗奈、こんばんは』「こんばんは。お仕事、お疲れさまです」『ありがとう。湊はもう寝たか?』「はい。今日はお昼寝が長かったので、寝かしつけに時間がかかりました」『そうか、お疲れ様。今日は何して遊んだん
晴れた日。私は湊を連れて、駅前の商業施設へ買い物に来ていた。日用品を買い終え、少し休憩しようと一階のカフェに立ち寄る。窓際の席にベビーカーを寄せ、湊に麦茶を飲ませた。「……まんま」「もう少ししたら、おやつにしようね」そう言ってバッグを開いたときだった。「あの、すみません」突然、声をかけられた。顔を上げると、スーツ姿の男性が立っていた。三十代前半くらいだろうか。整った顔立ちに、穏やかな笑みを浮かべている。「これ、落とされませんでしたか?」差し出された手には、小さなハンカチがあった。「あっ……!」見覚えのある柄だった。湊のハンカチだ。「ありがとうございます!」慌てて受け取る。「助かりました。全然気づかなくて」「いえ。お子さんのものかなと思ったので」男性はにこやかに笑った。そのとき、湊が男性を見上げた。「……あ!」「……ああ、こんにちは」男性は一瞬、何かに気づいたように湊の顔を見つめた。けれどすぐに穏やかな笑みを浮かべ、少し身をかがめる。「元気だね」ほんの一瞬のことだったので、私は特に気に留めなかった。「……あー!」湊は嬉しそうに声を上げた。「人見知りしないんですね」「最近は、だいぶ慣れてきたみたいで」「そうなんですか」男性は湊に手を振った。「じゃあね」「あの、本当にありがとうございました」「お気になさらず」そう言って立ち去ろうとした男性が、ふと足を止めた。「……失礼ですが」「はい?」「どこかでお会いしたこと、ありませんか?」私は首を傾げた。「……いえ。たぶん、初めてだと思います」「そうですか。すみません、知人に少し似ていたものですから」男性は困ったように笑った。「では」軽く会釈をして、今度こそ店を出ていった。私はその後ろ姿を見送った。感じのいい人で良かった。それ以上、特に気に留めることもなく、湊に向き直った。「湊、ハンカチ落としちゃ駄目だよ」「……ん!」分かっているのかいないのか、湊は元気よく返事をした。***商業施設を出た恭介は、停めてあった車の後部座席に乗り込んだ。「どうでしたか?」運転席の女が尋ねる。「……悪くないですね」恭介はネクタイを緩めた。「写真より、ずっと可愛いじゃないですか」「……そうですか」「子供もなかなか愛想が良くて」恭介は窓の外に







